相続が開始した場合には
相続が開始した場合、各相続人は次のうちのいずれかを選択することができます。
1.単純承認
相続人は被相続人の預貯金、土地の所有権などの権利や借金などの義務をすべて承継する。
2.限定承認
被相続人の債務がどの程度あるか不明であり、財産が残る可能性もある場合等に、相続人が相続により取得した財産を限度として被相続人の債務の負担を承継する。
(1.はすべての債務を承継するのに対し、2.は財産の限度内において承継する点で異なります。)
3.相続放棄
相続人が被相続人の権利や義務を一切承継しない。
この放棄は、例外を除いて相続人みずからがする行為です。放棄は住所地の家庭裁判所に対し書類を提出することになっていますが、裁判所への申述は、相続の開始があったことを知った日から3か月以内にしなければなりません。
相続における財産の流れとは
相続は、たいてい親(上の世代)から子(下の世代)へと自然な流れにそって財産が移転するというものです。しかし、必ずしもそうでない場合も起こりえます。配偶者がいない場合、子やその子の代襲相続人がいない場合です。
相続人には、優先順位があります。その順位に該当する者が誰もいない場合に次の順位へとくり下がっていきます。
相続順位
・被相続人 → 子(胎児も含む)<第1順位>
・被相続人 → 父や母<第2順位>
・被相続人 → 兄弟や姉妹<第3順位>
・被相続人 → 孫や甥・姪<子や兄弟姉妹の代襲相続人>
(被相続人は亡くなった人のことです。)
そして、このなかで上の世代から下の世代へと財産が承継されない相続があります。第2順位である父や母への相続です。父や母への相続は、唯一にして財産の移転が上の世代へ逆流する相続です。
また、配偶者とこれらの相続人の順位による組み合わせも考えられます。被相続人に配偶者がいるのであればその配偶者は”常に相続人”となります。(配偶者が順位に関わらず相続人となるのは、亡くなった被相続人の遺産の形成に寄与している度合いが他の者より大きいためと考えられるからです。)
今回は放棄のもつ効果をわかりやすく伝えるため、配偶者はいないものとして考えます。
放棄が考えられうるケース
次のような場合について考えてみます。
・被相続人(兄、54歳) 婚歴なし子どもなし 遺産7千5百万円
・父 4年前すでに死亡
・母(86歳、がんを患い入院治療中)
・弟(51歳)
・妹(44歳)
被相続人には第1順位の相続人(子)がいないので、相続人は第2順位の母のみとなります。
そこで、唯一の相続人である母は、弟と妹を前にしてこう言いました。
「私は高齢だし先は長くないから、相続放棄の手続きをさせてもらうわ」
このように母が放棄をすると、第1順位、第2順位がいないので第3順位の弟と妹が相続人となります。
弟と妹の相続分はそれぞれ2分の1です。
次のA.Bの2度の相続で税額がどのように変わるか見ていきます。
ポイントはAの時点で母が単純承認するのか放棄をするのかのいずれの意思表示をするかにより、結果がどのように変わるかという点です。
A.被相続人死亡時の相続税
B.母のいずれ起こりうる相続税(試算)
相続は必ず起こりうるのでこのように数字(税金)としてつかんでおくことが望ましいといえます。
1.母が単純承認をした場合の相続税
A. | 合計 | 母 |
遺産額 | 7,500 | 7,500 |
基礎控除 | 3,600 | |
課税遺産額 | 3,900 | |
納付相続税 | 580 | 580 |
母が被相続人からの相続を単純承認した場合に、数年後の母の死亡による遺産額は、18,000万円(父が亡くなったときに母が父から相続した財産)+7,500万円(Aの時に取得した財産)=25,500万円となります(下表)。
B. | 合計 | 弟 | 妹 |
遺産額 | 25,500 | 12,750 | 12,750 |
基礎控除 | 4,200 | ||
課税遺産額 | 21,300 | ||
納付相続税 | 6,885 | 3,443 | 3,443 |
2.母が相続放棄をした場合の相続税
A. | 合計 | 弟 | 妹 |
遺産額 | 7,500 | 3,750 | 3,750 |
基礎控除 | 3,600 | ||
課税遺産額 | 3,900 | ||
相続税総額 | 580 | ||
2割加算 | 116 | ||
納付相続税 | 696 | 348 | 348 |
母の死亡による遺産額は、18,000万円(父が亡くなったときに母が父から相続した財産)のみとなる(下図)。
B. | 合計 | 弟 | 妹 |
遺産額 | 18,000 | 9,000 | 9,000 |
基礎控除 | 4,200 | ||
課税遺産額 | 13,800 | ||
納付相続税 | 3,820 | 1,910 | 1,910 |
3.まとめ(1.と2.の違い)
これまでみてきたように、1.2のどちらであっても同様なのは、2度の相続を経て被相続人の財産(A)と母の財産(B)が最終的に弟と妹のところへと移転することです。これは、相続順位にそって移転するので必然です。
被相続人の財産7,500万円が、「直接兄弟のもとへ移転するのか」(←母の相続放棄)、「母を経由して兄弟のもとへ移転するのか」(←母の単純承認)とで次のように支払う相続税が変わってきます。
母が単純承認した場合の2度の相続税の合計 7,465万円
母が相続放棄した場合の2度の相続税の合計 4,516万円
相続はこのような技術的な話ですべて落着するわけではありません。被相続人や母の遺産額の大きさによって結果は変わってきます。
すべてに言えることは、円満相続となるように生前から相続財産の整理と把握、財産の行き先を示しておくということが望ましいでしょう。
【編集後記】
モノならまだしも、サービスの値段(値決め)を決めるのは難しい。街にありふれているものであればそれに足し算や引き算をすればいいと思うが、この世に二つとないようなサービスはどうか。二つとなければ足し算も引き算もできない。
それはやはり、少なくともcustomerがfee以上の満足度を得られるものでなくてはならないのかなと思う。・・・そう、だから簡単にはいかない。
そして、己がfee以上のperformanceができるよう日々鍛錬。これしかない。