あなたの頭上における権利の価値とは?”東京駅丸の内駅舎復原に学ぶ”

あなたの頭上における権利の価値とは?”東京駅丸の内駅舎復原に学ぶ”

2020年09月20日日
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丸の内駅舎の保存復原工事のための建築資金

2012年10月に「東京駅丸の内駅舎保存・復原工事(*1)」が終わりました。はや8年が経とうとしています。

(*1)建築および文化財の分野では「現存する建造物について、後世の修理で改造された部分を原型に戻す」という意味で「復元」ではなく「復原」を用いているそうです。

2012年9月 東京駅前にて撮影

 駅舎保存復原のための資金は500億円にのぼると報じられ、JR東日本はこの資金のほとんどをいわゆる「空中権」の売却でまかなったそうです。

 この「空中権」には、土地再開発における容積率の移転のための取引に関しての意味があります。

 それはどういうことでしょうか...。

東京駅があるこの地域の容積率からすれば、本来はもっと高層の駅舎なり駅ビルが建てられるはずです。「伝統を重んじ歴史ある価値の継承」を掲げ復原しようとする東京駅は、未利用である駅舎上空の容積率を他の土地に売却(移転)しました。これで、他の土地は本来の容積率以上の建物が建てられるようになりました。それが新丸ビルやJPタワーなどの高層ビルです。そこに500億円という価値がついたのです。

 路線価は容積率も考慮に入れて決められていることから、容積率をほかの土地へ売却した東京駅の土地は付近の土地よりも500億円低く評価されるのが公正な評価といえます。

権利の価値とは

 自分が所有する土地を他人へ貸す、その土地を借りた人が第三者へまた貸しするなどする行為は、自分が所有する土地の価額に対し影響を及ぼします。
 このとき、土地を貸している人から見れば、自分の土地の「利用」が制限されるわけなので更地価額から下げられてしかるべきです。
 土地を貸したり借りたりすれば、それまで更地だった土地が上地(借地権)と底地(底地権)に分けられそれぞれが権利をもつようになるためです。
 東京駅の空中権になぞらえて、所有する不動産の上空に関して、次のような事例があったとするとどうでしょうか。

Aさん 田を所有する地主
B株式会社 Aさんの田の上空を通過する送電線を補修するためにAさんの田に踏み入る会社

 B社は、Aの田に立ち入らせてもらうため、次のような権利の設定を登記します。

権利の設定の内容
・B社が送電線を設置すること、ならびに設置、保守等のためにB社がAの田に立ち入ることを許可する。
・土地所有者は次の行為をしないことを約束する。送電線の最下垂時における電線から3.6m以内の範囲に入る高さの建造物の設置等、爆発性・引火性を有する危険物の製造、取扱い、貯蔵。 

 これが、「地役権」の設定です。

 相続税財産評価基本通達では、この地役権のことを「区分地上権に準ずる地役権」と規定しています。
そして、この地役権が設定された土地のことを「区分地上権に準ずる地役権の目的となっている土地」などといいます。

「区分地上権に準ずる地役権」の目的となっている土地

 「区分地上権に準ずる地役権の目的となっている土地」とは、先述した高圧線下の土地です。

 まず、「区分地上権」の「地上権」とは工作物を所有するためなどの目的で他人の土地を使用する権利のことです。

 これに「区分」をつけて「区分地上権」というと、地上権のなかでも、地下や地上の空間の一定の範囲を目的として設定される地上権のことをいいます。地下も地上もひとくくりにして「区分地上権」と呼びます。まさしく、頭上数メートル上を通過する送電線は、区分地上権なるものが存在します。

 そして、「地役権」とは、ある一定の目的のために他人の土地を利用する権利のことです。

 この場合の「区分地上権に準ずる地役権」は、この送電線の架設等を目的として地上空間について上下の範囲を定めて設定されたもので、建造物の設置を制限する権利のことをいいます。(財産評価基本通達27-5⦅区分地上権に準ずる地役権の評価⦆)

 それでは、このAさんの所有する土地の相続税における権利の大きさを考えてみます。

 

区分地上権に準ずる地役権の目的となっている土地

 地役権の設定がない田と比較をすると、設定がない田(左)は 100,000円 に対し、設定がある田(右)は所有者(A)70,000円、地役権者(B)30,000円となります。
 上図の30%は、財産評価基本通達27-5に定めがあります。(この定めは読みとばしてかまいません)

(区分地上権に準ずる地役権の評価)27―5
 区分地上権に準ずる地役権の価額は、その区分地上権に準ずる地役権の目的となっている承役地である宅地の自用地としての価額に、その区分地上権に準ずる地役権の設定契約の内容に応じた土地利用制限率を基とした割合(以下「区分地上権に準ずる地役権の割合」という。)を乗じて計算した金額によって評価する。
 この場合において、区分地上権に準ずる地役権の割合は、次に掲げるその承役地に係る制限の内容の区分に従い、それぞれ次に掲げる割合とすることができるものとする。

(1) 家屋の建築が全くできない場合 100分の50又はその区分地上権に準ずる地役権が借地権であるとした場合にその承役地に適用される借地権割合のいずれか高い割合
(2) 家屋の構造、用途等に制限を受ける場合 100分の30

区分地上権の今後の利用は

 区分地上権は、もともと土地の立体的な利用を促進し規律することを目的として、民法269条の2に規定されました。今日では地上権のなかでも最も活用の伸びしろがあり、東京外かく環状道路の用地取得や区分地上権の設定など、今後においても様々な活用が見込まれます。

【編集後記】
日税連(日本税理士連合会)から、「税理士の業務とテレワーク(在宅勤務)~新型コロナウィルス感染防止対応版~」について公表されています。現行税理士法下での税理士業務が在宅勤務へと移行することによる税理士業務のあり方について取りまとめられています。このコロナ禍で「テレワーク」が実生活に浸透してきているなか、「ワーケーション」(*2)ということばも耳にするようになりました。ワーケーションだって「働き方改革」と「新しい日常(ニューノーマル)」を掛け合わせた、令和の新しい税理士業務の「型」と考えます。
 (*2)「ワーケーション」は、work (労働)とvacation(休暇)を組み合わせた造語