「休業手当」と「休業補償」の課税の取扱いと「使用者の責に帰すべき事由」の解釈とは

「休業手当」と「休業補償」の課税の取扱いと「使用者の責に帰すべき事由」の解釈とは

2020年11月22日日

【ポイント】
・どちらも労働基準法に規定されているものであり「休業に基因して雇用主から支給される給付」という点で性質が似ています。
・両者は似ていますが、課税の取扱いが異なります。
・休業における「使用者の責に帰すべき事由」の解釈とは。
・新型コロナ休業支援金・給付金(労働者へ直接に給付するいわゆる休業手当相当の金額)は課税されません。

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税務の取扱い

休業手当は、所得税法28条により給与所得となり課税されます

一方で、休業補償は、所得税法9条1項3号により非課税とされます
公務上又は業務上の事由による負傷又は疾病により受ける給付は、非課税(所得税法9条1項3号)であるためです。休業補償もこれに含まれます(所得税法施行令20条1項2号)。

国税庁タックスアンサー所得税No.1905 労働基準法の休業手当等の課税関係

 

支給しなければならない、とされる根拠規定

「休業手当」、「休業補償」は労働基準法に規定されています。

休業手当の支払義務とは

 休業手当については、労働基準法26条で定めています。

使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

労働基準法26条

休業補償の支払義務とは

 休業補償については、労働基準法76条で定めています。

労働者が前条の規定*1による療養のため、労働することができないために賃金を受けない場合においては、使用者は、労働者の療養中平均賃金の100分の60の休業補償を行わなければならない。

*1労働者が業務上の負傷または疾病にかかった場合には、使用者が必要な療養を行い費用も負担するという規定

労働基準法76条

休業とのかかわり

どちらも、「休業」が関わっており使用者に課する義務規定(・・・なければならない)となっています。
休業手当・・・使用者の責に帰すべき事由による休業には・・・手当を支払わなければならない。
休業補償・・・業務上生じた負傷等の療養のために働けなくなった労働者に対して、使用者は休業補償を行わなければならない。


 つぎに、26条(休業手当)中の「使用者の責に帰すべき事由」とはどのような事由か考えていきます。

 

休業における「使用者の責に帰すべき事由」とは

 新型コロナウイルス感染症の影響を受け、自治体から、感染拡大防止のための休業要請や時間短縮営業による協力依頼などが行われました。

そして雇用主はこの要請や依頼に協力するかたちで、会社を休業せざるを得ない決断を迫られました。

労働者の側からすれば、労働者本人の事情によらない休業(事業主の命(めい))であることは明白です。

 また一方で、雇用主の側からすればこうした要請や協力依頼を受けて労働者に休業をさせることが、このことをもってただちに休業手当を支払わなければいけない事態になるのかというと、それは「使用者の責に帰すべき」ものなのかの解釈に尽きます。

 経営者の立場で、「自治体の要請するコロナ感染拡大防止に協力してあげている」のに・・・「使用者の責」といえるのか、と反論したくなる心情もわからないでもありません。

 それでは労働基準法26条(休業手当)の冒頭で、「使用者の責に帰すべき事由」による休業とはどのような事由による休業を言っているのか。これについて考えてみます。

 

「使用者の責」それとも「不可抗力」か

 仮に、使用者の責ではないと言い切るのには、それが「不可抗力」でなければなりません。

 使用者の責に帰さない事由 = (責に帰さないのだから)不可抗力による事由

となりその結果、

不可抗力による休業 = 使用者の休業手当の支払い義務が生じない

と誰もが考えます。

一方、厚生労働省が公表する解釈はこうです。

「新型インフルエンザ等対策特別措置法による対応が取られる中で、協力依頼や要請などを受けて営業を自粛し、労働者を休業させる場合であっても、一律に労働基準法に基づく休業手当の支払義務がなくなるものではありません。」

支払義務が一律になくなるものではない。すなわち、不可抗力ではないと、言っています。

続けて、

 不可抗力における休業(すなわち、休業手当の支払いが免れる休業)を、次のいずれも満たすものであるとして下記のように説明しています。

1.その原因が事業の外部より発生した事故であること
 
2.事業主が通常の経営者としての最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であること

1.についてはその原因がコロナによる休業の要請なので外部より発生したことが明確です。

2.についての休業を回避するための最大限の努力とは、例えばこういったことです。
・自宅勤務などのリモートワークによる業務へ従事させることの努力
・他部署の業務に就かせることができるのであれば積極的に関与して業務に従事させる努力

以上のように、公表された厚生労働省のFAQについては、なかなか現実的に一義的な解釈をすることは難しそうです。

厚生労働省新型コロナウイルにに関するQ&A(企業の方向け)

 

休業手当の支給により雇用調整助成金の活用を

「ただ、労働基準法上の休業手当の要否にかかわらず、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主に対しては、雇用調整助成金が、事業主が支払った休業手当の額に応じて支払われます。」

との厚生労働省からの説明にあるとおり、労働者への滞りない支援を行き渡らせるためには、
法の解釈を案ずるより、雇用調整助成金制度の活用に全力をあげたいところです。

 

新型コロナ感染症対応休業支援金・給付金の創設

 休業手当を支払わない、雇用の維持、確保に努めることができない等の雇用主から労働者を守るため、第二次補正予算の成立により「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金」制度が創設されました。(休業させられた方が雇用保険の被保険者である場合に「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金」と、被保険者でない場合に「新型コロナウイルス感染症対応休業給付金」と呼んでいます。)

 この制度は、コロナの影響により休業させられた中小企業者に雇用される労働者で休業手当を受けられるにも関わらず受けられなかった人に対して直接金銭を給付する措置として設けられたものです。

 雇用保険臨時特例法によるもので、臨時特例法の定めにより支援金・給付金は課税されません。

新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための雇用保険法の臨時特例等に関する法律(令和2年法律第54号)

 

【編集後記】
先日、長女の入試選考の通知が郵便で届きました。たまたまその日は本人の誕生日。おめでとさん×2!!