【ポイント】
・税務における押印義務規定を確認していきます。
・令和3年4月1日以降(実務では施行日前から)に提出する税務関係書類について、一部の書類を除き押印不要とされました。
・民法における「契約」の定めでは、押印がなくても契約の効力に影響が及びません。
税務関係における押印義務規定(主なもの)
税務では、下記に該当する者はそれぞれの文書について押印をしなければならない(義務)とする規定があります。
まず、国税通則法に以下のような規定があります。
国税通則法第124条(書類提出者の氏名、住所及び番号の記載等)一部省略
2 税務書類*1には、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める者が押印しなければならない。
一 当該税務書類を提出する者が法人である場合 当該法人の代表者
二 ・・・省略・・・
三 ・・・省略・・・
四 前三号に掲げる場合以外の場合 当該税務書類を提出する者
*1税務書類とは、申告書、申請書、届出書、調書その他の書類のことをいいます(124条1項)。いいかえれば、税務署へ提出すする必要がある書類のことです。
法人でも個人であっても税務書類を提出する者は、・・・押印しなければならない、と規定されています。
次に、税理士法には次の規定があります。
税理士法第33条(署名押印の義務)一部省略
税理士又は税理士法人が税務代理をする場合において、租税に関する申告書等を作成して税務官公署に提出するときは、当該税務代理に係る税理士は、当該申告書等に署名押印しなければならない。この場合において、当該申告書等が租税の課税標準等に関する申告書・・・省略・・・であるときは、当該申告書等には、併せて本人(・・・省略・・・)が署名押印しなければならない。
2 税理士又は税理士法人が税務書類の作成をしたときは、当該税務書類の作成に係る税理士は、当該書類に署名押印しなければならない。
3 ・・・省略・・・
4 第一項又は第二項の規定による署名押印の有無は、当該書類の効力に影響を及ぼすものと解してはならない。
税理士は、・・・申告書や税務書類に・・・押印しなければならない、併せて本人は、・・・その申告書に押印しなければならない、と規定されています。
この押印における効果を「契約」になぞらえて考えてみます。
契約における押印の効果とは
契約において、押印することから生じる効果はどのようなものでしょうか。
契約とは身近なところで、売買契約、賃貸借契約、雇用契約、請負契約といったものなどがあります。
契約は、当事者同士の意思の合意によって、互いの間に権利や義務を発生させる行為をいいます。権利と義務を発生させるとはこういうことです。
土地の売買契約 | 権 利 | 義 務 |
売り主 | 代金を請求する権利 | 土地を譲り渡す義務 |
買い主 | 土地を購入する権利 | 代金を支払う義務 |
売買契約をはじめとするこれらの契約はいずれも契約書なる書面を作成し、互いの印鑑をその契約書に押印するのが一般的かと思います。
この契約の場面で印鑑を押印することによる”効果”を民法から確認します。
民法522条に契約の成立と方式についての規定があります。本条に押印への言及はありませんが、契約の成立要件について規定しています。
民法522条(契約の成立と方式)
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
民法522条からは、
・ 契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除いて、必要な要件とはされていないことがわかります。
・ 特段の定めがある場合を除き、契約にあたっては押印をしなくても、契約の効力に影響は生じないことがわかります。
押印義務規定は見直しへ
行政手続きにおける押印に関する規定は、内閣府設置の「規制改革推進会議」の議論の末に見直されることになりました。
そして、税務の分野においてもそれは例外ではないことから「納税環境整備に関する専門家会合」を経て、令和3年度税制改正大綱にしっかりと明記されました。
○納税環境のデジタル化
・税務関係書類における押印義務の見直し
・・・税務署長等に提出する国税関係書類のうち納税者等の押印を求めているものについては、現行において実印による押印や印鑑証明書の添付を求めているもの等を除き、押印義務を廃止する。また、地方公共団体の長に提出する地方税関係書類についても、国税と同様、押印義務を廃止する。
令和3年度税制改正大綱より(下線は筆者)
令和3年4月1日以後に提出する税務関係書類から適用し廃止されます。
ここでいう税務関係書類は、先の国税通則法122条にいう「税務関係書類」と思われるので、今年の3月15日を提出期限とする令和2年分の所得税等の確定申告書は押印不要ということになります。
それでは、なぜ廃止するのか。
・国・地方公共団体を通じたデジタル・ガバメントの推進による行政手続コストの削減。
・感染症の感染拡大により、あらわになった課題への対応。
どちらにも通ずるのは、税務手続の負担軽減のためです。
また、この改正による法律施行日前であったとしても、国税庁は、税務署窓口へ提出する押印を要しない税務関係書類について、押印がなかったとき、改めて押印を求めないことを明らかにしています。税務署窓口における押印の取扱いについて(国税庁HP) (令和3年2月9日更新)
押印廃止となった申告書、申請書、届出書の所得税関係と法人税関係をそれぞれ確認していきます。
それでも実印を押す書類や印鑑証明書を添付する書類は、「押印義務を廃止しない」書類として残るのですが、それらの具体的な書類については”vol.4”で取り上げたいと思います。
【編集後記】
1月1日より問い合わせフォームを新しくしました。ひとまず試験運用ですが、本格的な運用は1月27日ころを予定しています。