【ポイント】
・暗号資産取引で利益がでていても申告しなくていい人は。
・移動平均法により計算する場合には届出が必要。(届出書を提出していない人は総平均法により計算。)
・評価方法は暗号資産の種類ごとに選択。
・移動平均法により計算したほうがよい場合とは。
目次
暗号資産取引で利益が生じていても申告しなくていい人、すべき人
暗号資産(仮想通貨)の取引における所得は、課税の対象となり、原則として雑所得*1として確定申告をする必要があります。
*1次のような人、や次のような場合、は事業所得になります。
・暗号資産取引によって生計を立てている人
・事業所得を営む人が商品購入の決済手段として暗号資産を用いた(モノをBTCで買うなどした)場合
ただし、次のような人は申告をする必要がありません。
① 給与や賞与の全てについて所得税が徴収されているか、または、
② 年末調整が済んでいる給与所得者、で
暗号資産の取引における所得が20万円以下(注)の人。
(注) この点、正確に言うと、20万円以下に含まれる所得は暗号資産の取引だけでなく、一時所得やほかの雑所得などの給与所得及び退職所得以外のすべての所得が含まれます(所得税法121条1項)。年金所得者にも同じような規定があります(所得税法121条3項)。
言い換えると、次の場合に言うAさんは、20万円以下である暗号資産取引についての利益も含めて確定申告しなければいけません。
Aさん
・給与所得(年調済)・・・600万円
・暗号資産取引による利益・・・16万円
・個人年金の支払いを受けたことによる所得・・・5万円
(理由)
それは、給与所得以外の所得が20万円を超えているからです。
20万円 < 21万円(16万円+5万円)。
次のような人についても、暗号資産取引による利益を除外することなく申告書に含めなくてはいけません。
・給与所得以外の所得が20万円を超えているので確定申告する人(121条にあてはまらないので)
・医療費控除やふるさと納税などで確定申告をする人
・もともと、事業所得、不動産所得などがあり確定申告をする人
・その他
などどんな理由であれ確定申告をするとなれば、暗号資産取引による所得をもらさず申告書へ記載しなければなりません。
暗号資産の評価に用いる評価方法
暗号資産取引による所得(=利益)は、
1.収入ー売却原価(必要経費)
により求められます。
そしてこの売却原価は、
2.年初金額(前年末の評価額)+年中購入金額ー年末評価額
により求めます。
評価が求められれば利益が算出できるのです。
評価額から利益→税金までの流れを整理すると、
年末に所有している暗号資産をいずれかの方法(総平均法と移動平均法)により算定(評価)する。
↓
売却原価(収入から控除する部分)を求める
↓
暗号資産の所得(=利益)を求める
↓
税金を計算する
このように評価をするための評価方法が定まらないと税金が計算できません。
譲渡(売却)原価を求めてみる
そこで、ひとつの例題から、二つの異なった評価方法により売却原価にどのような違いが生じるか具体的に計算してみます。
例題.
具体的にそれぞれの計算書に代入してそれぞれの評価方法について見ていきましょう。
<評価方法1>総平均法による計算『暗号資産の計算書(総平均法用)を使用』
総平均法に依る場合計算表にあるとおり、総平均法によった場合の売却原価は3,106,000円となり、雑所得の金額は2,189,000円となります。
<評価方法2>移動平均法による計算『暗号資産の計算書(移動平均法用)を使用』
移動平均法に依る場合計算表にあるとおり、移動平均法によった場合の売却原価は3,080,200円となり、雑所得の金額は2,214,800円となります。
評価方法の違いで、雑所得の金額に違いがあることが確認できました。
評価方法 | 総 平 均 法 | 移 動 平 均 法 |
収 入 金 額 | 5,295,000円 | 5,295,000円 |
必 要 経 費 | 3,106,000円 | 3,080,200円 |
雑 所 得 | 2,189,000円 | 2,214,800円 |
それでは、このふたつの評価方法にはそれぞれどのような特徴があるのかメリット、デメリットをあげていきます。
総平均法によった場合のメリット・デメリット
メリット
・計算が簡便。(複数の交換所で取引している場合でも計算は容易)
・「年間取引報告書」により「暗号資産の計算書」が作成可能。
デメリット
・1年の売買が終わらないと売却原価が計算ができない。
・年末に向けて相場が上昇しているときは、売却単価が移動平均法よりも低めに計算される。
移動平均法によった場合のメリット・デメリット
メリット
・売却の都度、その時点での売却単価を知ることができる。
・年末に向けて相場が上昇しているときは、売却単価が総平均法より高めに計算される。
デメリット
・計算が面倒。(特に複数の交換所でアービトラージをしている場合は複雑)
・「暗号資産の計算書」を作成する際、「年間取引報告書」が使用できない。
ふたつの評価方法におけるメリット、デメリットについて、おおまかにでもわかりましたでしょうか。
次に、あなたがとるべき具体的な手続きを確認していきたいと思います。
総平均法・移動平均法を選定する手続き
暗号資産取引には、ふたつの評価方法がありそれぞれの方法で雑所得の金額に違いがあることがわかりました。
しかし、これら評価方法は暗号資産交換所(「bit Flyer」、「Coin check」、「DMM Bitcoin」など)ごとに選択できるわけではないので注意が必要です。
すなわち、アービトラージの目的で「イーサリアム」を複数か所の交換所で取引しているとしましょう。この場合の移動平均法による評価の計算は交換所ごとに行うのではなく、交換所に関係なく日時の順(移動の順)に売却単価を計算する必要があります(一方、総平均法は、年末に売却単価の計算をするので複数の交換所で取引している場合でも計算は容易です)。
交換所の垣根を越えて、あくまで暗号資産の種類(名称)ごとに計算することになります。
・法定評価方法(届出書を提出しない人の評価方法)
届出をしていない人は法定評価方法によります。
暗号資産取引の法定評価方法は「総平均法」です。
・届出書の提出期限
通常、届出書は出しません。提出期限は気にしなくていいでしょう。
それでも提出するあなた、提出するならこちらです「所得税の暗号資産の評価方法の届出書」。
届出書の提出期限(移動平均法を選択したい場合の提出期限)は、初めて暗号資産取引を始めようとする、または始めた年の3月15日となります。
・届出書の変更手続き
評価方法(法定評価方法を含む)を、変更しようとする場合には変更しようとする年の3月15日までに申請書を提出します。「所得税の暗号資産の評価方法の変更承認申請書」
・選択の単位
暗号資産の種類ごと(BTC、ETH、XRP・・・ごと)に選定(選択)します。
移動平均法を選択する局面はあるのか
移動平均法は、日時を追いかけて売りと買いを記録する必要があるので、何百回、何千回と継続して、かつ、分単位や時間単位で売買取引をする人に対しては評価方法として現実的ではありません。(RPAを組み、計算させれば別でしょうが)それではどのような人が移動平均法を選択するのか。
例えば次のような人が、移動平均法を選択してもいいのではないのでしょうか。
・買う回数は多くても売る頻度が少なく容易に取引をトレースできる人。
・長期保有目的でレートが上昇する局面にある暗号資産を所持している人。
【編集後記】
最近、話題の「ジェンダーニュートラル」。うちの娘が好きなトイストーリーのキャラクターに「ミスターポテトヘッド」(ジャガイモ顔のキャラクター)がいます。そのミスターポテトヘッドは、(ミスター)がとれて「ポテトヘッド」になるそうです。(おそらくディズニーの計算されたマーケティング戦略なのでしょうが・・・。)ならば、「ミスド(ミスタードーナツ)」も「ド(ドーナツ)」になるのかと話題が広がりました。…..たしかに…..、ホントにそんなことにまでなってしまうものなのか。