デューデリで何もなかった以上、それは本当にノーサイドといえるのか

デューデリで何もなかった以上、それは本当にノーサイドといえるのか

2020年05月31日日
スポンサーリンク

Prologue

<カザマ商事買収プロジェクトに関して>
 「デューデリでなにもなかった以上、私のほうからはなにも言うことはないよ。」

トキワ自動車代表取締役である島本社長(西郷輝彦)が放ったこのことばから ”ノーサイドゲーム” の第八話は始まります。

カザマ商事との買収プロジェクトをまとめあげた滝川常務(上川隆也)が、つぎのプロジェクト会議で承認が得られれば次期社長ポストへの道が約束されるという筋書きです。

(滝川常務はこの後、脇坂経営戦略室室長の首謀にはめられその道は約束されませんでした。)


M&A(企業の合併及び買収のこと)において、「デュー・デリジェンス」は重要です。

「デュー・デリジェンス」とは


「企業の買収などに際して、買収対象となる企業や事業などを評価するために行う調査」

のことをいいます。以下では「DD」と略します。

 DDにおける調査が、対象とする分野は多岐にわたり、また一朝一夕に終わるものでもありません。
 私自身も今から3年ほど前にDDに立ちあわせてもらえる機会がありました。その時の実体験をふまえながら自分なりの「DD」をまとめてみます。


(私が立ちあった「DD」としての業務は、金融機関のマッチングによるものでした。
 企業への調達資金貸し出し業務は、金融機関の本来業務のひとつです。しかし今日の金融経済情勢(ゼロ金利政策、決済手段のキャッシュレス化、金融の多業態化)においては、貸出業務から思うように利ザヤがとれず、特に多様な海外取引業務が少ない地方都市の金融機関は苦境にたたされています。
 よって、貸し倒れリスクがなく、より高いprofitが得られるコンサルティング分野(M&Aマッチング)への業務進出は待ったなしなのでしょう。地域のネットワークを駆使することで地域経済に寄与し、ビジネスとしても安定しやすいといえます。)

DDでは具体的にどのようなことをするのか


「企業の資産価値を適正に評価するための詳細な調査」ですから、買収対象企業に対する下記に掲げる調査をします。

1.事業内容、ビジネスモデルの調査
2.財務内容の調査
3.コンプライアンスの調査

 また、調査で得られた情報は買収合意の成否に関わらず、第三者にもらしてはならないので、秘密保持契約として基本合意書(*1)に明記されます。

(*1)DDを実施する前の暫定的な取り交わし書のこと

DDからわかること-1


 DDの目的は、買収対象とする企業が、将来キャッシュフローを生む企業なのかどうなのか。

事業の将来性を考えるうえで、まず一番に何よりも重要です。

この将来性が見込めなければ、買収を行う意味はありません。


”1.事業内容、ビジネスモデルの調査” では買収の対象とする企業業種の地域における市場規模と市場シェアを把握することが求められます。

 勝負をかける市場は、成長市場なのか縮小市場なのか、また、ブルーオーシャン(競争のない市場・業界・分野)なのかレッドオーシャン(競争が激しい市場・業界・分野)なのか、独自性や強み、差別化はできているかを、自らの経営理念と戦略におとしこむ必要があります。


“2.財務内容の調査” に関して税務の側面からいえば、過去の税務調査における指摘事項やその指摘に対する対処、てん末に至るまで税務署に示した根拠資料とともに確認することは重要です。

それらの特徴的な点をあげれば、

(1)経理処理のうっかりミスなのか、
(2)従業員による会社背任行為(金銭の横領など)なのか等々

があります。

税務署による税務調査は、会社が適正に納税申告をしているかどうか帳簿等の確認をするのが本来の目的です。会社が(2)のような道徳に反した行為をしていれば(許していれば)、税務調査(修正申告)を通じてその行為は正さなければなりません。

そういう意味でも税務調査は、DDの財務内容の調査、コンプライアンスの調査のほんのいささかを兼ねていることがわかります。

DDからわかること-2


 買収対象企業がこれまで幾多に締結しているであろう契約上の「売主による損害賠償責任を負う地位」も買収する企業が引き継ぎます。

 財務諸表に現れてこない債務保証、クレームやリコールによる製品回収費用などの負担リスクなどの「オフバランス」項目などには特に注意が必要です。



 それでは、結論に。


 デューデリで何もなかった以上、それはノーサイド(ラグビーで試合終了の意。試合が終われば敵も味方も区別がなくなる意。)といえるのか……..。
 デューデリで何もなかったと仮にするのなら、その後も互いのシナジー効果の検証をしながら将来キャッシュフローの増加につなげなければならない。
 シナジーによる効果は、必然だったのか偶然だったのか、外的要因によるものだったのか内的要因によるものだったのか。今後の経営に生かす必要があります。


参考文献:佐和周『M&Aにおける財務・税務デュー・デリジェンスのチェックリスト』中央経済社・2016年


【編集後記】
単語を変換すると予測候補としてリストが表示される機能があります。
「いちまんえん」とテキスト入力し変換すると、「一蔓延」と最初に予測候補されてしまいます。
世の中の大多数の方が「(ウイルスの)蔓延」を検索し、これがAIにより世の中に蔓延されてきたからなのでしょうか。
必然でしょうか偶然でしょうか。
この変換は内的要因なのか、外的要因なのか。