【はじめに】
・在宅勤務にかかる費用負担等に関するFAQ(源泉所得税等)問8.9が4月30日に更新されました。
・このFAQでは、“食事の支給”と“食費の補助”の意味は異なることとして、ことばを使い分けています
・”食事の支給”は会社が従業員に対して契約業者から弁当などの提供や食券の支給をすることです。
・“食費の補助”は食事代の現金支給のことです。
食事の支給(現物)という「経済的利益」
会社が昼食などの食事代を何らかの形で負担(食事の支給や食費の補助)した場合には、一般的に、その負担を受けた従業員は会社から経済的利益を受けたことになります。
従業員が経済的利益を受けたとなれば、その受けた利益の額については給与等(食事→利益→給与等)とされ、所得税を徴収しなければいけません。ですので、処理がやや煩雑にになります。
<1,100円の食事の支給(現物)をした経済的利益のイメージ>
経済的利益ありのケース | 経済的利益が残業等をした者への食事 または少額のケース | |
食事の支給の扱い | 給与 | 福利厚生費 |
会社負担額 | 1,100 | 1,100 |
所得税の徴収 | あり | なし |
食事代は飲食店に支払われるため、飲食の提供そのものが従業員への「現物給与」(金銭給与に対することば)となります。
その食事という飲食が、給与(経済的利益)とされれば飲食に相応する所得税を従業員からもらわなければなりません。
そうなると、処理が面倒ですし金銭給与でないのに従業員から所得税を徴収しなくてはならず、また、従業員の給与の手取りは極力減らしたくないと経営者は考えるので、税金の徴収は避けたいところです。
しかし、経済的利益が残業等をした者への食事代*1または少額*2である場合には給与等として課税しなくてよいケースがあります。
*1(所得税法基本通達36-24)
*2(所得税法基本通達36-38の2)
次でこの少額*2の場合を、確認していきましょう。
所得税を徴収しなくてよい昼食代とは
通常、昼食代は従業員に対する経済的利益とされます。
しかし、経済的利益とされない食事の支給の条件が、所得税法基本通達36-38の2に規定されています。
課税されない昼食等の支給
会社が役員や従業員に支給する食事(残業や宿日直をした場合に支給する食事を除きます。)については、次の①、②いずれにも該当する場合には、給与(食事の支給による経済的利益)として課税されません。
① 食事代の半分以上を従業員が負担していること
② 会社が負担している食事代が、月額合計3,500円(税込8%では3,780円)以下であること
これについて、国税不服審判所平成26年5月13日裁決では、次のように取扱いの解釈を述べています。
・現物給与については、金銭に比べ選択性が乏しく換金性が低いあるいは換金性がないものが多い。
・食事の支給による現物給与は福利厚生的な性質を有している。
・所得税法基本通達36-38の2は、使用者が使用人等に支給する食事について、一定の条件に該当する場合には、食事の支給による経済的利益はないものとして取り扱う旨を定めている。
・経済的利益が少額である場合にはあえて課税しないとしても弊害がない。
としています。
現物給与(食事の支給)は換金性に乏しいし、かつ、少額であれば課税しない、と、金銭給与(食費の補助)とは内容を異にしています。
一方で金銭給与(食費の補助)は上記通達の解釈にそぐわないので課税扱いとされています。
金銭支給の場合の取扱い事例
先に、金銭給与(食費の補助)は上記通達の解釈にそぐわないので課税扱いになる、と言いました。
金銭支給(食費の補助)の場合における事例が、国税庁:質疑応答事例で照会されています。以下の事例を一緒にみていきます。
国税庁:質疑応答事例
使用者が使用人等に対し食事代として金銭を支給した場合
事例
(1) 従業員は、食事代の領収証を会社に提出。
(2) 会社は、領収証に記載された利用日がその従業員の出勤日であること、食事の内容などを確認。
(3) 会社は、領収証に記載された食事代の50%相当額を、月末で締めて翌月5日に食事代負担金として従業員の預金口座に振り込む。
(4) 食事代負担金は、月額3,780円(税込み8%)を上限とする。
この場合、従業員が受ける食事代負担金については経済的利益がないものとして取り扱ったうえで所得税の対象にしなくとも差し支えありませんか。
回答
(3)、(4)は、いかにも食事の支給をした場合の所得税法基本通達36-38の2で取りあげた条件を満たすかのように見えます。
しかし、食事の支給ではなく、食費の補助(金銭支給)ですので、(3)、(4)に関わらず、食事代負担金は所得税の課税の対象になります。
ただし、食費の補助(金銭支給)に違いがないからと言って、実費精算の方法による一時の立替えの場合にまで一律に、給与として課税されてしまってよいのでしょうか。
これについては、次で明らかにしたいと思います。
食費の補助として残業をした者への食事代を実費精算した場合は・・・
リモートワーク時に残業をする場合に、その残業をした者への食事代を実費精算することがあります。
会社が食事を現物で支給するのではなく、従業員が外食したりコンビニなどで食事を購入し、その食事代を実費精算する場合のことです。
週刊税務通信令和3年4月19日No.3651では、残業食事代においては、「実費精算の際に会社から支払われる金銭が給与課税の対象とされず、実体として、食事の支給と同視できるのであれば単に従業員が立替払いを行っただけであり、給与課税されることはあり得ない」と言っています。
続けて、「この食事の取扱いはオフィス勤務でも、リモート勤務でも課税の扱いは変わらない」と言っています。
至極当然きわまりないことです。
しかし、オフィス勤務、リモート勤務の食費の補助としての昼食代はいずれも、「実費精算をしても課税される」と読めるので先の”少額”に該当しないのであれば、非課税とするのは難しいでしょう。
【編集後記】
「SHAREDINE(シェアダイン)」って聞いたことがありますか。管理栄養士やレストランシェフが家庭に来て料理でもてなしてくれる出張料理のマッチングプラットホームを運営している会社です。需要と供給がなければビジネスとして成り立たないのでしょうが、新潟でも展開され登録されているシェフがいらっしゃると聞きました。作ってもてなす人(供給)、食べる人(需要)、「食文化の継承」はいずれがかけてもいけません。コロナ禍で影響を受けて生活様式を変えざるをえず苦しい今、貴重なビジネスです。大きく育ってほしいと応援しています。