令和2年から適用される所得金額調整控除、その背景にあるものは「所得」制限との「調整」か

令和2年から適用される所得金額調整控除、その背景にあるものは「所得」制限との「調整」か

2020年08月30日日

【ポイント】
・所得金額調整控除が設けられた理由を探っていきます。
・所得金額調整控除の導入は、給与所得控除の縮小による改正と関係がある。
・所得金額調整控除の適用対象となる給与年収850万円超は、自治体から子育て世代への支援制度と関係がある。
・年収800万円を超える給与所得者は全体の14.9%で440万人(国税庁:民間給与統計実態調査・平成30年)

所得金額調整控除には、①子ども・特別障がい者等を有する者(子ども等)、②給与所得と年金所得の双方を有する者(年金等)があります。本記事では、①(子ども等)に焦点をあてて投稿します。

 

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所得金額調整控除(子ども等)

 この所得金額調整控除(子ども等)が適用される者は、その年の給与等の収入金額が850万円を超える給与所得者のうち、下記のいずれかに該当する者です。

 この所得金額調整控除(子ども等)が適用される者は、その年の給与等の収入金額が850万円を超える給与所得者のうち、下記のいずれかに該当する者です。

・年齢23歳未満の扶養親族を有する者
・所得者本人が、特別障がい者である者
・特別障がい者である同一生計配偶者または扶養親族を有する者 

算式:控除額={給与等の収入金額(1,000万円超の場合は1,000万円)ー850万円}×10%
   (算式より15万円が上限となる)

 この所得金額調整控除(子ども等)は、
・所得控除ではない(総所得金額の計算をするときに控除するもの)
・年末調整、確定申告のどちらでも適用が可能
・扶養控除等とは異なるので、共働きであれば夫婦お互いが適用できる(扶養控除、配偶者控除や配偶者特別控除は夫婦のいずれか一方の適用)
ので、注意が必要です。

 所得金額調整控除の適用対象となる給与年収850万という値と、自治体から子育て家庭への支援制度の「所得制限」との関係を見ていきます。


 

所得制限ということば

 子育てをしている親が、育児養育の助成や教育費の支援の制度を利用するのに、立ちふさがることば「所得制限」

 子育てをしている親が、育児養育の助成や教育費の支援の制度を利用するのに、立ちふさがることば「所得制限」

所得制限をわずかに上回ってしまったがために”支援がなくなってしまった”などという話も耳にします。

例えば、
児童手当は、中学生までの児童の人数と年齢により支給されるものです。

父(給与収入)、母(専業主婦)に3歳未満の子どもが2人、の合計4人の家族がいたとしましょう。
父の給与収入が「所得制限」未満か以上かで児童手当は次のように違ってきます。

所得制限未満 年間36万円
所得制限以上 年間12万円(特例給付)
(長岡市HP・児童手当制度の概要)(上記モデルの場合の所得制限は給与年収換算917万円程度

次に、高等学校等就学支援金は、平成26年から始まった高校授業料が実質無償化の制度です。

父、母(共働き夫婦)、高校生が2人、の合計4人の家庭では、
所得制限未満では、2人分の高校3年間の合計72万円弱
所得制限以上では、ゼロ
所得制限は給与年収換算910万円程度)*ここでは父母を合計した所得制限となります。

との結果になり、これら二つの制度を見ても「所得制限」のもつ意味が、家庭に与える影響は非常に大きいと考えます。


 

税制改正と所得制限の関係

 改正により給与所得控除額が10万円下げられ、その下げられた10万円は基礎控除へ振り替えられました。そして、基礎控除は38万円から48万円となりました。【過去記事】2020年から基礎控除が改正に

 すなわち、この10万円は申告書上で「控除する場所」の引っ越しが起きただけの話ですので、税を負担するコストは改正前も改正後も実質的にかわりません。
 しかし、一律10万円の控除額の引き下げと同時に、控除額の上限額が適用される給与年収が850万円(改正前1,000万円・下図)とされ、その上限額は195万円(改正前220万円・下図)に引き下げることとされました。

 給与から控除する金額が下げられた↓ことによって、所得(給与所得)は上がる↑ことになります。

 そして、この所得が上がって↑しまったことで、「所得制限」の「所得」を超過してしまい「助成」や「支援」の恩恵が受けられなくなる人がいます。収入が以前と変わらないのに・・・という話です。

 これらの「助成」や「支援」などの制度は、ある意味「所得」で線引きをし、ふるいをかけているのでこのような税制の改正を行う(税負担は変わらずとも)と、恩恵にあずかれなくなってしまった人にとって『収入の逆転現象』なることがおきます。

 この給与所得控除額の改正によって、これら制度が受けられなくなっては本末転倒です。

 そして、控除額の上限引き下げの改正のあおりを受けるかたちとなった人のうち、子どもを扶養しているなど一定の要件を満たした人は、所得金額調整控除(改正がなかったとした場合の所得金額に戻しますよ)の適用が受けられることになりました。


 

給与所得控除額の改正

 平成24年分以前は、給与所得控除に上限なんてありませんでした(給与が増えれば控除額も比例して青天井で増えていきました)。それが平成25年分より年々、改正により上限額が縮小されてきています。同時に、上限額が適用される収入金額も下げられています。

平成24年まで 上限なし
平成25年 上限245万円
平成28年 上限230万円
平成29年 上限220万円
令和2年 上限195万円(*基礎控除への振り替え10万円を考慮しないと205万円)

【令和元年分までの給与所得控除】
給与収入を構成する階級の推移に着目し作成
年収660万円であればブロック縦3列分が控除額となり186万円
年収を構成する下の階ほど控除率は高い

上の図から、年収1,000万円の方の給与所得控除は、

・改正前(令和元年分まで)1,000万円×10%+18万円+36万円+66万円=220万円 上図
・改正後(令和2年分より)上限195万円(*基礎控除への振り替え10万円を考慮しないと205万円

1,000万円の方は、改正により15万円の縮小となりました。この15万円が、冒頭で説明している所得金額調整控除の上限と一致します。

 すなわち、改正による給与所得控除の縮小額(給与所得の増加額)15万円の影響により、児童手当や高等学校等就学支援金制度について、所得超過となって受けられないことのないよう、冒頭の所得金額調整控除15万円で打ち消し、今までどおり受けられるようにした苦肉の策の”控除”といえるでしょう。


 これはこの控除が、「所得控除」でないことからも説明がつきます。
 所得金額調整控除が、所得控除であるとするなら、苦肉の”策”にすらなりませんから。

国税庁:所得金額調整控除
国税庁:年末調整で所得金額調整控除の適用を受けるとき
国税庁:[手続名]給与所得者の基礎控除、配偶者(特別)控除及び所得金額調整控除の申告

【編集後記】
ブログ続けて半年がたちます。
つねに己のことばで、その時の関心事を気ままに投稿してきました。
己が、そのとき、その瞬間に、何に関心をもっていたか、自分の関心事が積みあがっていく点で、ブログはいいなと思います。
「ブログは『名刺』がわりになります」と言ってる方がいました。
ブログが「名刺」がわりと言えるようになるまで・・・、日々鍛錬です。