基礎控除は、38万円から48万円へ
旧所得税法86条では、
1 居住者については、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から三十八万円を控除する。
2 前項の規定による控除は、基礎控除という。
と、規定されていました。
この規定にあらわれているように、平成7年より25年もの長い間ずっと基礎控除は38万円でした。
しかし、令和2年分(2020年分)以後の所得税について適用される基礎控除は、次に示すように国民の大多数の人が48万円となります。
所得税法86条(令和2年1月1日施行)
1 合計所得金額が2500万円以下である居住者については、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額を控除する。
一 その居住者の合計所得金額が2400万円以下である場合 48万円
二 その居住者の合計所得金額が2400万円を超え2450万円以下である場合 32万円
三 その居住者の合計所得金額が2450万円を超え2500万円以下である場合 16万円
基礎控除とは
この基礎控除は、
「本人の最低限度の生活を維持するのに必要な部分は担税力をもたない」
という趣旨から、
憲法第25条の生存権の保障についての租税法における現れ(租税法第二十三版・金子)だともいわれています。
基礎控除と憲法25条との関係
ではこの「本人の最低限度の生活を維持するのに必要な部分」とはいくらなのか。過去においてこの「基礎控除」が「憲法」との関わりあいで争われた裁判(東京地判昭和61年11月27日判決)があります。
原告(納税者)の主張
基礎控除の制度は、最低生活費部分については課税すべきでないとの考えからくるものであるから、少なくとも物価上昇の割合に応じて基礎控除額も上昇させるべきである。
被告(課税庁)の主張
租税は、国家の財政需要を充足させるという本来の機能に加えて、所得の再分配、景気調整などの様々な機能を有しており、よって、国政全般からの総合的な政策判断を必要とするし、租税法の定立については立法府の政策的技術的判断にゆだねられるべきである。
これら両者に対し、裁判では、「原告が主張するような基礎控除額を物価上昇の割合に応じて上昇させなければならないといった義務が立法府にあるとは到底解し難い。」とし、原告の主張を退けました。
そもそも、原告においては総所得金額が839万円であり、原告が 最低生活費と主張する生活扶助基準額「標準4人世帯で約162万円」(昭和61年当時)を大幅に上回っていることが認められるために、原告の主張する「健康で文化的な最低限度の生活」が侵害されているということはないと明らかにして、争いの余地はないと判示しています。
では、なぜここへきて「基礎控除」の改正をしなければならなくなったのか。この理由はほかにありそうです。
この話の続きは、また次の機会にふれたいと思います。