令和2年分からの「ひとり親控除」と「寡婦控除」を整理してみましょう

令和2年分からの「ひとり親控除」と「寡婦控除」を整理してみましょう

2020年09月27日日

話題にしたこと
・所得税法上の「ひとり親」とは
・ひとり親と寡婦のいずれの定義にも該当する場合は「ひとり親控除」を優先します
・ひとり親家庭に対する税制の公平化
・寡夫控除と特別の寡婦の加算はひとり親控除に吸収
・事実婚の関係にある者は、ひとり親控除、寡婦控除のいずれも対象外
・寡婦と寡夫の要件が異なることの違憲性

 

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ひとり親控除とは

 令和2年分の所得税における年末調整及び確定申告より「ひとり親控除」が創設されました。
「ひとり親控除」とは数ある所得控除(*1)のうちのひとつです。
(*1)所得控除とは、扶養控除、配偶者控除、社会保険料控除、医療費控除などの14種の控除をいいます。

所得税法81条(ひとり親控除)
居住者がひとり親である場合には、その者のその年分の・・・所得金額から35万円を控除する

このように、「ひとり親控除」を規定している81条はいたってシンプルです。
課税の対象としている本人(親である立場の人に適用がある)が「子どもから見てひとりの親」かどうかです。そして、親というからには子どもを有していなければなりません。
「ひとり親控除」は、性別を問わずすべての「ひとり親」に同様の控除額(35万円)が適用されます。

 シンプルと言いながらも、この「ひとり親控除」の理解を難しくさせているのが、次の2つの点です。この際、整理しておきましょう。

1.「ひとり親」の定義及び範囲
2.以前からある「寡婦控除」との関係

 

1.「ひとり親」の定義及び範囲を考えてみる

 所得税法の第二条1項31号に規定があります。(以下は、規定をかみくだいています。)

●当たり前ながら子どもには親がふたりいるわけですが、ひとりであることの原因事象については、“離婚”、”死別”、”未婚”、”生死(行方)不明”、などがあります。

ひとり親控除の「ひとり親」にはこれらすべてがあてはまります。よって「ひとり親」に婚姻歴の”有無”は関係がありません。

しかし、いくらひとりでも、”離婚していないが別居中”、というのは「ひとり親」とはいいません。
現に婚姻をしていないのが条件であるためです。

●上記に加え「ひとり親」は、次の条件のいずれにも合致する者が対象者です。

イ.ひとり親の子どもは、その親と生計を一にしており課税標準の合計額(いわゆる所得の金額の合計額)が48万円以下であること(子どもの年齢条件はなし)
ロ.ひとり親本人の所得金額が500万円(給与所得のみの人は年収で678万円)以下であること
ハ.いわゆる事実婚に該当する者(*2)がいないこと
 (*2)事実婚に該当する者とは、住民票の続柄欄に「夫(未届)」「妻(未届)」の記載がある者をいいます。

以上が、ひとり親控除の規定の適用がある「ひとり親」です。

 

2.以前からある寡婦控除との関係を考えてみる

~寡婦控除は一部改正となり、寡夫は「ひとり親」に吸収されました。

 所得税法の第二条1項30号に寡婦が定義されています。

●寡婦はひとりであることの原因事象が、“離婚”、”死別”、”生死(行方)不明”です。
条文で、夫と離婚した後・・・、夫と死別した後・・・、とあるように婚姻歴が一度でもあることが前提です。

「ひとり親」は婚姻歴を問わないのですが、このことは「ひとり親」との決定的な違いです。

●上記に加え、寡婦は次に合致する者が対象者です。

イ.扶養親族を有すること ←死別の場合は扶養親族要件なし
ロ.規定を受けようとする本人の所得金額が500万円(給与所得のみの人は年収で678万円)以下であること
ハ.いわゆる事実婚に該当する者(*2)がいないこと
(イ.は「ひとり親」でいうところの “子” に限定されません。また、その親族の所得は48万円以下に限ります。)

★以上のように、ひとり親と寡婦の要件は、似かよっています。
条文上 ”「寡婦」からは「ひとり親を除く” と定めているので、どちらにも該当すれば「ひとり親控除」を優先して適用することになります。

 

3.改正後の控除額はどのように

ひとり親控除

個人住民税についても同様の改正内容。(ひとり親控除額30万円、寡夫控除額26万円)

  

寡婦と寡夫の適用要件が異なることの違憲性

 平成6年9月13日最高裁判決では、「寡婦控除」と「寡夫控除」とで適用要件が異なることの違憲性について次のように述べ、納税者(所得が500万円を超え、寡夫控除が認められなかった者)の主張をしりぞけています。

 ” 寡婦控除と寡夫控除とでその適用に差異があるのは憲法14条1項(法の下の平等)に反するとの原告(納税者)の主張に対し、所得税法が・・・・・・扶養親族等がいる場合にのみ寡夫控除を認めたのは、寡婦と寡夫との間の租税負担能力の違い、その他の諸事情を考慮した結果と考えられるから、立法府がその裁量の範囲を逸脱し、この区別が著しく不合理であるとは言えず、憲法14条1項(法の下の平等)に反しない

 と判示しています。

 寡夫控除は昭和56年税制改正により父子家庭のための措置として、それまで寡婦控除のみ認められていたものを、一定の要件を満たした者のみ寡婦控除に順じて新たに設けられた規定です。

このことはさきの最高裁判決で、不合理の程度が「著しくはない」といっています。

今日において寡婦と寡夫を分ける必要性がそんなにあるのかということを考えると、私は「幾ばくか」は不合理であると思います。

その不合理が、今回新設された「ひとり親控除」にいう、”性別によって要件や控除額の差はなし”と体現されたのならなおさらのことでしょう。

 寡夫控除はひとり親控除へと引き継がれてなくなりましたが、それでもやっぱり、「(旧)寡婦控除」という呼び名が残ってしまいました。

 なぜ残ったのか、後世への説明がまた必要です。

 

【編集後記】
暑さも和らぎ、夜は過ごしやすくなってきました。
”秋の夜長に”、というわけでもないのですが映画やドラマを観てみるのもいいのかなぁと。
いまは昔と違ってテレビだけでなく、いろんなデバイスでオンデマンド配信により、自分の空いた時間に観られます。鑑賞の環境はかなり変わりました。そもそもコロナ禍ですし。
偶然でしょうが、WOWOWから「昔契約されていた方にキャンペーンで来月いっぱい無料視聴できます!」と電話がかかってきました。(そういえば錦織選手が全米オープンで準優勝したとき契約してたっけ。)
さて今晩、SurfaceProでなに観ようか。