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さまざまな場面における「判定の時期」
何をするにしても「判定の時期」があります。
・日常生活では、カード会員のランクステージを決めるもととなる利用金額及び利用期間とその「判定の時期」。
・特別定額給付金の受給資格を有するかどうかの「判定の時期」。【関連記事】「特別定額給付金は非課税」の理由は
・中小企業者等の優遇税制の適用を受けるための「判定の時期」。
など。
やはり押さえるべきところは押さえないと、大事な判断にも過ちをおかしてしまうおそれがあります。
年末調整の各種の申告用紙に記入する時期は、11月とか12月の遅くとも給与支払日までになるでしょうが用紙に記載する金額等は、12月31日現在の状況(収入金額や年齢)を見積もったうえで判定し適用することになります。
また、本人や親族に異動(死亡や出国)があった場合には、判定の時期が変わりますので注意しましょう。
年末調整の控除における判定の時期
納税者本人が申告する場合に下記の者に該当するかどうかについての判定の時期は、次のようになっています。
下 記 の 者 に 該 当 す る か | 原則の場合 | 年中途で死亡または 出国した場合 |
本人が障害者 | その年の12月31日 | 死亡または出国の日 |
本人がひとり親 | 同 | 同 |
本人が寡婦 | 同 | 同 |
本人が勤労学生 | 同 | 同 |
本人の配偶者 | 同 | 同 |
本人の扶養親族 | 同 | 同 |
なかでも扶養親族とは、居住者の親族(配偶者は除く。)、里親に委託された児童、養護受託者に委託された老人でその居住者と生計を一にする(*1)者のうち、合計所得金額が48万円(令和2年分から38万円から48万円へ改正されています)以下である者をいいます。
親族の所得48万円の判定は12月31日の現況により見積もった所得か、または、年の途中で亡くなっていれば死亡した日現在の所得によります。
(*1)「生計を一にする」とは、必ずしも同居を要件とするものではなく、例えば、勤務、修学、療養等の都合上別居している場合であっても、余暇には起居を共にしている場合や、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合をいいます。
控除対象扶養親族(扶養親族のうち、年齢16歳以上の人のこと)に該当する人を扶養しており、令和2年分の扶養控除等申告書に記載すれば所得から最低でも38万円が控除されます。
「最低でも」38万円と言うのはなかでも①年齢19歳以上の人、②年齢70歳以上の人は、この38万円がそれぞれ①65万円、②48万円(同居を常況としている人は58万円)として控除されるからです。
この年齢は、いずれも12月31日現在の年齢によります。(以下は、年齢に応じた扶養控除額⦅障害者は除く⦆の一覧です。)
扶養親族の年齢 | 控除額(障害者 でない場合) | 同居の場合 | |
16歳以上19歳未満 | 38万円 | 同左 | |
19歳以上23歳未満 | 65万円 | 同左 | |
23歳以上70歳未満 | 38万円 | 同左 | |
70歳以上 | 48万円 | 58万円 |
判定における「12月31日」を用いる場合と「死亡の日」を用いる場合について、具体例を2つあげて見ていきましょう。
ひとり親控除と配偶者控除の両方が適用できる場合
Q1 夫Aは、妻Bを同一生計配偶者(*2)としていましたが妻Bは今年の7月に亡くなりました。
そこで夫Aは、扶養控除等申告書(以下、「申告書」という。)の「ひとり親控除」欄をチェックして勤務先に提出しました。
夫Aは、ひとり親である他の要件を満たしています。妻Bを亡くしましたが配偶者控除の適用はあるのでしょうか。
(*2)同一生計配偶者とは、所得者と生計を一にする配偶者(青色事業専従者等を除きます。)で、合計所得金額が48万円以下の人をいいます。
A1 夫Aは、年末調整において 「ひとり親控除」 と 「配偶者控除」 の両方の適用を受けることができます。(所基通81-1)
【関連記事】令和2年分からの「ひとり親控除」と「寡婦控除」を整理してみましょう
ひとり親または同一生計配偶者に該当するかどうかは、通常その年の12月31日の現況により判定します。
しかし、妻B(同一生計配偶者)が年の中途で死亡した場合には、死亡時の現況により判定することになります(上図)。
よって、それぞれの時点でそれぞれの要件を満たしていれば、夫Aは、妻Bに関して「ひとり親控除」と「配偶者控除」の両方の適用を受けることができます。
配偶者控除を受けるために、扶養控除等申告書には配偶者の氏名や、所得の見積額(1月1日から死亡時までの)を忘れずに記入するように心がけましょう。
同一の人を、「あなた」だけでなく「私」からも扶養控除等できる場合
Q2 父Aは、今年の10月に会社を死亡退職しました。相続人である妻Bは亡父Aの年末調整の手続きのため、子C(年齢16歳以上)を控除対象扶養親族とする申告書を、亡父Aの勤務先に提出しました。
また妻Bは、自身の勤務先に子Aを控除対象扶養親族とする申告書を提出しました。
この子Cに関して、亡父Aと妻Bのいずれにおいても扶養控除とすることができるのでしょうか。
A2 控除対象扶養親族に該当する限り、亡父A及び妻Bの両方において子Cを扶養控除として年末調整することができます。(所基通83~84-1、85-1)
父Aまたは妻Bの扶養親族に該当するかどうかは、その年の12月31日の現況により判定することとされていますが、父Aが年の途中で死亡した場合は、その死亡時の現況により判定することとされています。
また、12月31日の現況において、ある一人の者を対象として複数の納税者が重ねて配偶者控除や扶養控除を受けることはできません。
しかし、亡父Aの控除対象扶養親族に該当した人(子C)であっても、その後その年中において妻Bの控除対象扶養親族に該当することとなった場合は、妻Bの控除対象扶養親族として控除の対象となることができます。
したがって、子Cは亡父Aの死亡時の年末調整においては扶養控除の対象となり、また妻Bの年末調整においても扶養控除の対象となることができます。
その子Cが亡父Aと生計を一にしていたかどうかは、その亡父Aの死亡の時の現況により判定します。
その子Cが亡父Aの控除対象扶養親族に該当するかどうかは、その亡父Aの死亡の時の現況により見積もった子Aのその年の1月1日から12月31日までの合計所得金額により判定します。(よって死亡の時において確定している所得のみで判定することのないように注意してください。)
国税庁:扶養控除 Q6.年の中途で死亡した夫の控除対象配偶者とされた妻の扶養控除 (リンクにより開いたページを一番下までスクロールしてください)
令和2年からは、年齢16歳未満の子をもつ人も減額可能性余地あり
これまで見てきたように扶養控除は、年齢が「16歳未満の扶養親族」は対象となりません。
しかし、令和2年分からは「16歳未満の扶養親族」がいる場合においても所得税が減額される場合があります。
例えば「年末調整を終えた後、12月31日に子どもが生まれた」などの納税者がいたとします。
扶養控除は従来どおり適用できませんが、一定の要件に該当すれば、所得金額調整控除が適用できます。
詳しくは、下記についてご覧ください。
【関連記事】令和2年から適用される所得金額調整控除、その背景にあるものは「所得」制限との「調整」か
国税庁:所得金額調整控除に関するFAQ(源泉所得税関係)令和2年6月 12ページめの中ほどからが該当します
「判定の時期」について憲法違反だとの主張をめぐる裁判
以上述べてきたように、「判定の時期」がその年の12月31日を原則とするということはゆるぎない事実です。
しかし、この「判定の時期」について12月31日とすることは不公平で憲法違反だと主張する納税者がいました。平成20年名古屋高裁での裁判です。
以下は原告(納税者)が主張する「ロジック」です。
1.早生まれ(1月1日から4月1日まで生まれ)の子と、前年に生まれた遅生まれ(4月2日から12月31日まで生まれ)の子は同一学年とされている。
2.その結果、早生まれの子を持つ扶養者(ここでいう原告)と遅生まれの子を持つ扶養者との間で扶養控除の権利を1年分行使できないという不公平な扱いを受けている。注
注(扶養控除の判定時期は12月31日であるから、大学4年生として在学中の年の扶養控除について早生まれの子は就職年(社会人1年目)と重なるために扶養親族の所得金額要件を超えることとなる可能性があることから)
3.早生まれの子を持つ親について、大学卒業年(就職年)の前年12月31日に扶養親族の要件を満たす場合には、その翌年に1年分の扶養控除の権利の行使を与えるべきである。
として、その親は大学卒業年(同年の子の所得は183万円)における所得税の確定申告書を(当時の)特定扶養親族に該当する者として提出した。
4.これに対し課税庁(被告)は、原告が提出した確定申告書について扶養控除を認めず更正処分等をした。原告は、課税庁のした処分が違法であるとして取消の処分を求めた。
しかし、名古屋地裁、名古屋高裁とも下記のように判示して原告の主張を退けています。
「納税者の子が特定扶養親族に該当するためには、その子が納税者と同一生計に属し、かつ、一定額以上の収入がないこと必要としているのであって、同一学年に属するものを一律にその親の特定扶養親族と扱うことは予定されていない。」として、
「同一学年に属する子であっても、その子の進学の有無、住居、就学状況、送金等の有無、収入の額等の諸事情によって、特定扶養親族に該当するか否かについての判断に差異が生ずるのであってそのこと自体、扶養控除制度が当然に予定しているものであるから、何ら不公平であるとはいえない」としました。
たしかに、納税者の個々の扶養の実体に照らし合わせて扶養親族の判断をしたうえで、教育費を負担する納税者の税負担能力に対し配慮すべき扶養控除制度の趣旨から考えれば、判旨は妥当かと思われます。
また、特定扶養親族の年齢は(当時)16歳以上23歳未満である限り、その年齢に達する都度誰もが均等回数受けられると考えられるので、何ら不公平ではありません。
詳しく知りたい方は、
「税務訴訟資料258号順号10911」もしくは、TKC法律情報データベース「LEX/DB文献番号25470860」でご覧になれます。
【編集後記】
私が住むマンションで毎年開催されてきた「trick or treat !」はコロナ禍により中止となってしまいました。来年こそは開催できればと感染の終息を願います。